がん終末期に求められているもの

2023年11月15日号
土浦市医師会 田村洋一郎(野上病院)

 70歳代の方。令和2年夏、つかえ感を覚え一般病院を受診、内視鏡検査により進行食道がんと診断された。

 総合病院を紹介され、がんの縮小を目的とする術前化学療法(抗がん剤治療)後、食道がん根治手術を受けた。術後肺合併症により翌年春まで入院を余儀なくされ、栄養・糖尿病管理と自宅での生活準備のため、一 般病院に転院した。入院期間は計6か月を超えた。

 退院以降、生活支援のため自宅への訪問診療・看護・リハビリを実施していくこととなった。同年秋、縦隔に転移病変を認めたが、外来放射線照射を複数回行い、上昇していた腫瘍マーカーも正常値に近づいた。

 病態は安定し、日常生活も自立していたが、令和5年春よりがん疼痛が現れ、胸椎転移が確認された。がん疼痛は医療用麻薬により制御可能となった。骨転移に対する化学療法は、日本癌治療学会が推奨する身体ストレスの少ない治療計画を採用し、3週ごとの外来点滴抗がん剤投与を予定した。化学療法2回を終了した2週後に急変し、そのまま自宅で永眠された。

 今回、がん患者の社会復帰を促す入院療養と、2年3か月間、週5回の在宅診療が実施され、緩和ケア・薬剤処方・食事栄養管理・毎日の血糖測定・インスリン自己注射などにより、自立した生活が可能になりました。家族と多職種医療従事者とのチームワークの賜物と言えます。

 一般的に、手術・化学療法・放射線療法の積極的がん治療は「病気に焦点を合わせた医療」であり、生存期間の延長を第一の目標とする一方、緩和ケアは「患者の生活に焦点を合わせた医療」であり、延命ではなくQOL(生活の質)の向上を目指します。

 がん治療は標準治療のほか、さまざまな選択肢があります。医師は患者のモットーに配慮し、患者が納得したうえで、治療内容を決定します。

 ただ、治癒が望めず死が迫ったとき、人は無常な宿命に自らの思いを馳せながら、ひるまず健気に泰然として、諦観を感じているものだと私には思えてきます。