悩みとうつ病
2018年5月15日号
土浦市医師会 寺島康(つくばメンタルクリニック)
多くの人はストレスを抱え、悩みを抱えながら生活を送っている。どこまでが悩みで、どこからが病気なのか?悩んでいたら病気になってしまうのか?悩みが深いと病気になるならば、悩まないようにしようなどと悩み始めるときりが無い。
そこで悩みと病気を区別する簡単なポイントを挙げてみる。まず、悩みの種が明確で、原因が解決すると気分も晴れるものは「うつ病」ではない。次に、どんなに大変と思っても、仕事や勉強・家事がきちんとこなせるうちは「うつ病」には至っていない。何も出来ず、食欲も落ちて丸一日寝ても、二日目で回復出来ればうつ病ではない。職場の上司が嫌で、夕方に居酒屋でビールのジョッキを片手に思わず「死にたい」と口にしても、翌朝元気に仕事に行けるのはうつ病ではない。これらは全て日常生活の「悩み」の範囲なのだ。
うつ病の構成要件の中核は、「ゆううつな気分」や「興味・喜びの著しい減少」の状態がいったん始まると、他の症状と共に2週間以上回復しない(できない)状態で、社会人であれば仕事に影響が、学生であれば勉強に影響が出る状態を指す。「2週間以上」この状態が続くと、社会人は仕事や社会的信用に支障が出て来てしまい、学生だと勉強に追いついて行けなくなりかねない深刻な状態に至る。
悩みならば原因を解決すれば気分が晴れるのに、うつ病ではきっかけになる問題があっても、その問題が解決した後にも気分の低迷が続いてしまい、一見すると「打たれ弱い」とか「もともと駄目なやつ」と見なされてしまうなど、病気なのに「気の持ち様」と誤解されて「しっかりしないお前が悪い」と逆に責めらてしまうことが巷では頻繁に生じ、本人すらその通りと受け止めてしまったりしている。
このようにうつ病は、病気の状態と現実の社会から受ける評価との狭間に苦しむ側面を持っている病気で、特に真面目で几帳面な人ほど苦しみが深くなる傾向を持ち、別角度から見れば何とも可哀相な病気なのである。そこで「悩み」と「うつ病」については、医療関係者たる者だけでも、しっかり区別をつける眼力を持ち、精神疾患の中で一番高い有病率を持つうつ病の人に叱咤激励をするのではなく、救いの手を差し伸べることが出来るようにして頂きたいものです。