漢方薬について
2009年1月15日号
土浦市医師会 川嶋健吾(つちうら東口クリニック)
漢方薬の代表選手として誰でもよく知っているのは葛根湯でしょうね。落語にも出てくる葛根湯医者は、相手かまわず誰でも葛根湯を出す藪医者と描かれていますが、葛根湯が風邪だけでなく、頭痛、肩こり、鼻づまり、耳閉、腹痛、下痢、おねしょ、おっぱい不足など、葛根湯の証(頭痛肩こり無汗など代表的な適応症状)があり、太陽膀胱経という経路上のツボに病気があれば、何でも効いてしまうのは事実です。なぜこんな使い方が出来るかというと、漢方は一言で言うならバランスの医学だからです。その背景には陰陽五行説という拮抗と循環のバランス哲学があり、人の細胞、組織、器官、身体、食物、気候、宇宙の全ての次元に陰陽五行があり相互に関連しているので、人の病んだ部分の陰陽五行の気を、漢方薬などで別次元から補うことが出来るのです。
例えば目を体の五感の一部と考えれば五臓の肝に属すのですが、目そのものの中にも五行があり五臓と関連しているので、瞳が濁る白内障なら腎の八味丸、虹彩炎なら肝の柴胡桂枝湯、白目が充血する結膜炎なら肺の越婢加朮湯、下まぶたにクマができたら脾胃の人参湯というように、全身の陰陽五行を整える薬が目の中の陰陽五行を整えることにも使えるので、同じ漢方薬で色々な病気に対応できるのです。西洋薬の風邪薬には鼻水を止める抗ヒスタミン剤、咳止め、鎮痛解熱剤など様々な成分が調合してあるのに、漢方薬は葛根湯一剤でどうしてあんなに効いてしまうのでしょうか。
その答は葛根湯の成分シナモンにサイトカインの嵐を抑える効果があるためで、頭痛も熱も咳も鼻水もインフルエンザの肺炎や脳症も、全てサイトカインが引き金になっているのです。全てのかぜ症状の大本であるサイトカインを抑えれば、インフルエンザも普通のかぜで終わってしまいます。
漢方薬の素晴らしさを再認識していただき、インフルエンザ・シーズンを乗り切っていただきたいと思います。