被ばくと甲状腺がんについて
2013年4月16日号
土浦市医師会 大原潔(土浦協同病院)
2年前に起きた東日本大震災は、福島第一原子力発電所(原発)事故を誘発し放射能汚染を生じた。原爆被災国である日本では、多くの国民が放射線被ばくに改めて強い関心を示すようになった。
被ばくによる人体影響については、原爆被爆生存者の追跡調査の結果(外部被ばく)が主な知識源であり、これを基に放射線への安全策が講じられている。結果の一つは、100ミリシーベルト以下の低線量では、被ばくの有無で影響に差が見られなかったことである。低い線量で生じうる影響とは発がんの可能性である。一方、ラジウム温泉などによる低線量被ばくは健康にむしろ好影響を与えるとする立場もある。しかし法的には、放射線はわずかであっても危険であるとする立場がとられている。
チェルノブイリ原発事故(外部+内部被ばく)では、白血病と甲状腺がんとの発生増加が懸念された。発症が比較的早い白血病は外部被ばくにより、甲状腺がんは内部被ばくにより増加すると予測されたからである。しかしこれらのがんは元々発生率が低く、低い線量での増加の有無を見るには、母数が多数必要な上、正確な被ばく線量の評価が必要となる。
甲状腺は特異的にヨウ素を取り込むが、それが活発な小児の甲状腺被ばくが問題とされる。放射性のヨウ素131も非放射性ヨウ素と同様に甲状腺に取り込まれ、選択的被ばくを生じるからである。しかしヨウ素131は半減期が8日と短く、取込みが続けられない限り、1か月も経つと被ばくはなくなり、被ばく線量は評価不能となる。
福島原発事故では小児甲状腺がんの増加はなさそうであると予想されている。チェルノブイリと異なり、①摂取する食物には非放射性ヨウ素が豊富で、ヨウ素131が取込まれる余地は少なかったとみられること②事故の発生が早く知らされ、ヨウ素131を取り込む機会が少なかったことなどが理由である。小児の甲状腺検診は、がんの発生よりも、甲状腺に元々異常がどの程度あるのかを調べる基本データ作りと見た方が良さそうである。無症状の甲状腺に関するデータはないからである。